コミュニティFMで地域に“届く”情報発信を 公設民営のコミュニティFM「FMもおか」の取り組み|栃木県真岡市

2022.4.1 | Author: 天谷窓大
コミュニティFMで地域に“届く”情報発信を 公設民営のコミュニティFM「FMもおか」の取り組み|栃木県真岡市

栃木県の南東部に位置し、日本一のいちご生産量を誇る街としても知られる真岡(もおか)市。この街で2020年より放送を行う「FMもおか」は、市が放送設備を設置し、宇都宮ケーブルテレビなどが出資する「株式会社エフエム真岡」が運営を担当する「公設民営方式」のコミュニティFMです。

 

開局にあたっては同市の石坂真一市長が旗振り役となり、同市荒町の市役所庁舎内にスタジオと送信所を設置。「同じ建物のフロアを移動するだけでお互い行き来ができる」利点を活かし、「実質的な部署のひとつ」と表現されるまでに綿密な連携がなされています。

 

地域情報の発信を担うコミュニティFMとして、理想的ともいえる連携体制はいかにして構築され、維持されているのか。そして日々の放送において重視しているポイントとは──。真岡市 総合政策部 情報政策課 情報管理係長の小池知恵子さん、株式会社エフエム真岡 取締役放送局長の髙橋尉浩さんにお話を伺いました。

市長が率先して旗揚げ。市営ケーブルテレビの運営ノウハウを活用

 ――FMもおかは、真岡市の主導によって立ち上がったと伺いました。開局の経緯について詳しく教えて下さい。

小池さん:開局の発端となったのは、2017年に真岡市の石坂真一市長が掲げた「コミュニティ放送構想」です。地元での説明や意見交換を行うなど、市長自ら旗振り役を務めるなかで県内や全国のコミュニティFMの視察や検討を進め、2020年の市役所新庁舎に開局しました。

 

――地元ケーブルテレビ会社が運営に携わる「公設民営方式」という点も非常に興味深いところです。どのような経緯からこのような体制に至ったのでしょうか。

小池さん:もともと真岡市ではケーブルテレビを長年運営しており、その取材ノウハウや放送技術をコミュニティFMにも活用することにしました。テレビとラジオは設備面で共通する点も多く、応用しやすいという点もありますし、これまでの取材活動を通じて得た地元との関係性をさらに活かせるのではないかと考えました。

真岡市 総合政策部 情報政策課 情報管理係長の小池知恵子さん

 

市役所庁舎に組み込まれた放送局機能

――2020年に完成した真岡市役所の新庁舎に設置されているFMもおかですが、開局にあたっては庁舎そのものが放送局機能を組み込んだ建物として設計されるなど、文字通り市役所との一体化を志向されたと伺いました。

小池さん:テナント入居する建物の場合、場所によっては管理者への許可が必要であったり、夜間や休日の立ち入りが制限されるなどの問題がありますが、市が直接管理する庁舎であれば、有事の際にも迅速な対応が可能です。とくに災害時においては放送を継続させるための非常電源などが肝要であり、こうしたインフラの観点からも、市の庁舎と放送局を一体化させるべきと考えました。

 

――FMもおかのスタジオと市の防災担当部署は、同じフロアの隣同士に配置されているそうですね。

小池さん:コミュニティFMの存在意義である災害対応をメインに考えた際、防災を担当する部署とスタジオが近い距離にあることが必須と考えていましたが、今回、庁舎の設計段階から関わることによって、「同じフロア内の隣同士」という、もっとも理想的な配置を実現することができました。

真岡市役所にあるFMもおかのスタジオ内観 スタジオからは市役所内の広場と空の様子が見え天候の変化にも気づきやすい

 

――何かあれば、市役所から「徒歩0分」でスタジオへたどり着けるのですね。

小池さん:何か有事が発生した場合、市の職員は同じ建物を歩いて移動するだけで、FMもおかのスタジオに到着でき、そのまま直接放送で情報を伝えることができます。同じ建物の中なので、天候や災害条件によってスタジオへの道のりが分断される心配もありません。

 

――他にも、少人数で効率的な運営を行うための工夫がさまざまに行われていると伺いました。

高橋さん:緊急時に備えて割り込み放送装置も設置しており、有事の際にはスタジオを介さず、市から直接FMもおかで放送を送り出せる体制を整えています。

株式会社エフエム真岡 取締役放送局長の髙橋尉浩さん

小池さん:日々のニュースや、緊急情報の放送にAI機能を活用したアナウンスシステムも導入しています。和歌山県和歌山市の「エフエム和歌山」が開発したシステムが使われている事例を見て、市長からも「ぜひFMもおかに導入しよう」と、積極的な後押しを受け、導入を決めました。

 

――原稿さえあれば、いつでも自動でアナウンスが行えるというシステムは非常に画期的ですね。

高橋さん:AI機能を活用したアナウンスシステムには自動翻訳の機能も備わっており、日本語で入力した原稿を、スペイン語、ポルトガル語など20数カ国語に翻訳し、専門スタッフが不在の場合でも、多言語でのアナウンスを迅速に行えるようになっています。

小池さん:真岡市にはブラジルやペルーなど外国出身の方が多く在住しており、こうした方々へいかに情報を伝えるかという点も課題となっていました。現在もボランティアの翻訳者の方にお手伝いをいただいていますが、夜間や災害発生時など、お力をお借りすることが難しい場面もあります。こうした面からも、効率的かつ迅速な情報発信が可能となるこのアナウンスシステムは、非常に心強い存在となっています。

 

パーソナリティが日頃から庁舎内を歩いて取材

 ――市役所の建物内にFMもおかのスタジオがあるということは、FMもおかから市役所へのアクセスの面でも非常にメリットがありそうですね。

小池さん:FMもおかの番組スタッフやパーソナリティも、市の職員と同様、徒歩で庁舎のなかを移動すれば、市のあらゆる部署へ直接訪問することができます。生放送中、曲がかかっている間に各部署へ出向き、担当者に情報収集や確認を行うといったことも日常茶飯事です。

 

――お話を伺っていると、市役所との“心理的距離の近さ”もまた非常に印象的です。

小池さん:日頃からパーソナリティやスタッフが市役所のなかを歩いているので、各部署の担当者とも「顔なじみ」の関係となりました。何か伝えたい情報がある際にお互いが「あの人に声をかけよう」と思い浮かぶような距離感になれているという点は、災害時の対応もふまえると、非常に大きな強みだと思います。

 

「基本、台本ナシ」担当者が自分の言葉で伝える行政情報コーナー

――市の職員の方が生出演するレギュラーコーナーもあると伺いました。

小池さん:平日、お昼の12時から40分間、真岡市の職員が毎日日替わりで生出演し、自らの担当業務や施策についてお話するコーナーを設けています。

 

――しかも、毎回“台本ナシ”と伺いました。

小池さん:行政としてお伝えしたいお話は、その件についてもっともよく知っている担当者が自分の言葉で直接お話するのがもっともベストではないかと考えました。

高橋さん:このコーナーはお昼のワイド番組の1コーナーとして編成されているのですが、番組パーソナリティが聞き手となる対談形式となっています。いわゆる行政的な堅苦しい言葉ではなく、ごく普通の自然体の言葉でお届けできるので、リスナーのみなさんからも「担当者の顔が見えて親近感が湧く」と好評のお言葉をいただいています。

――ここでもまた、市役所とFMもおかが同じ庁舎の中にあるというメリットが活きていますね。

小池さん:出演する職員も、お昼休みに「ちょっとFMもおかに行ってきます」と、別フロアにちょっとでかけてくる感覚で放送に出演してもらっています。

高橋さん:コーナーのなかでは毎回職員の方が選んだ曲をオンエアするのですが、「知らない横顔や趣味が垣間見える」と評判で、職員のみなさんのあいだでも、昼休みに「今日は○○さんが出るんだって」と、FMもおかに耳を傾ける習慣ができているようです。

 

――市役所の職員の方も、純粋なリスナーとしてFMもおかの放送を楽しんでいるのですね。

小池さん:リスナーのみなさんはもちろん、市の職員にとってもFMもおかを聞くことが習慣になることを目指しました。日頃から親しみ、認知されるからこそ、いざというときに「FMもおか」という選択肢が立ち上がってくるのです。

 

情報発信は「まず『FMもおか』で」職員のあいだでも浸透

 ――これまでもケーブルテレビを通じて情報発信を行ってきた真岡市ですが、FMもおかの開局によって、どのような点が大きく変わりましたか。

高橋さん:ケーブルテレビの場合、設備的な制約もあって、なかなか生放送を行うことが難しい環境にありました。普段の情報を発信する際にも、企画から放送までのあいだに平均2週間程度と長い時間がかかり、迅速な情報伝達を行うことができなかったのです。

小池さん:その点、FMもおかの開局によって、情報のリアルタイム性は格段に向上しました。大掛かりなテレビに比べてラジオ、とくにコミュニティFMは非常にシンプルなメディアなので、これまでケーブルテレビでは伝えにくく、スポイルされていたような小さな情報も扱えるようになり、市として発信できる情報の格段に増えました。

――新鮮な情報を、細かく、素早く届けられるようになったのですね。

小池さん:市役所内でも複雑な承認フローを経由することなく、各部署から直接FMもおかにアクセスして情報発信を行えるようにしているため、それぞれ市民のみなさんに伝えたい情報があれば、直接スタジオを訪れて放送に乗せられるようになりました。職員たちの間では、「何かあれば、まず『FMもおか』で」が合言葉となっています。

 

「防災ラジオを求める行列」で感じた地元の期待

――真岡市では防災ラジオの有償頒布も行っていますが、開始当初から非常に大きな反響があったと伺いました。

小池さん:頒布開始はFMもおか開局前の2020年10月5日でしたが、庁舎の前に防災ラジオを求める方々の行列ができるという状況で、その反響の大きさに非常に驚いたのを覚えています。

――市民の方々の期待の大きさを感じるエピソードですね。

小池さん:ラジオはFMもおかの放送のみが受信できる構造であり、さらに頒布開始当初はまだ放送が開始されていない状態でした。それにもかかわらず、これだけの反響があったということに、市民の方々の期待の大きさを感じ、背筋が伸びる思いでした。

CDの寄付の呼びかけから2週間で全国から4,000枚以上の寄贈があり、開局当初のCD数を含めて7,000枚近くが棚に並んでいる姿からは「FMもおか」への期待の大きさが伺える

 

――開局前の時点で、すでにFMもおかは広く認知されていたのですね。

小池さん:コミュニティ放送構想の発表後、市長が自ら地元で積極的な広報活動を行ってきたということも大きく影響していると思います。いずれにしても、市民の方の絶大な期待を前に満を持して開局することができたのは、とても幸運でした。

 

「街のイベント会場」としてのコミュニティFM

――市民による情報発信など、パブリック・アクセスの機能もコミュニティFMの持つ大きな要素ですが、FMもおかでは、どのような取り組みを行っていますか?

小池さん:コロナ禍によってリアルイベントを開催しづらい状況にあることを踏まえ、例年イベントを行ってきた学校や市内の各施設が、FMもおかの放送を“会場”としてラジオ上でのイベントを開催しました。

高橋さん:中学生の体験学習の受け入れ、市内高校生のラジオを通じての学校紹介、地元の発電所がコロナで中止になった社会科見学をラジオ上で行ったこと、などが地元新聞にも取り上げられ、大きな反響を生みました。

――ラジオを「街のイベント会場」にする、というアプローチは非常に興味深いです。

小池さん:密な状況が生まれやすいリアルイベントについては、行政としてまだ積極的に行える状況にはないのが現状です。その点、ラジオならば、いつでも、どんな場所にいても、耳を通じて同じ空間を共有することができるので、大きな可能性を感じています。

 

――FMもおかを聴けば、いつでも真岡市に行けるわけですね。

小池さん:地元の方にとっても、市外の方にとっても、真岡市のいまに触れることができる場として「FMもおか」を認知していただきたい、という思いがあります。

高橋さん:放送を聴いていただき、「なるほど、いま真岡市はこうなっているのか!」という発見していただく機会につながればと考えています。

 

市民の生活リズムに溶け込み、真岡市での幸せな暮らしを担う存在でありたい

――FMもおかの番組表を見ると、日曜日の時間帯はすべてMUSICBIRDからの配信番組となっています。

高橋さん:日曜日の時間帯は臨時のイベント番組を編成できるように、あえてレギュラーの自社番組を入れていません。普段はMUSICBIRDの多彩な番組でリスナーのみなさんに楽しんで頂くことで聴取習慣を育てながら、今後街でイベントが行われた際には柔軟に特番編成が組めるようにしています。

小池さん:現状はまだリアルイベントを開催できる状況にはありませんが、ゆくゆくコロナが明けて、イベントを開催できるようになった際は、イベント会場の生中継なども行えたらと考えています。ただ、その場合も、最初から最後まで中継を行うのではなく、聴いた方がその後、実際にイベント会場へ足を運んでいただくきっかけとなるような集客手段として機能させたいと考えています。

――ラジオという手段を通じ、“真岡市に触れる習慣を作る”のが「FMもおか」なのですね。

小池さん:多くの方にとって新聞が「朝起きたらまず読む」存在であるように、FMもおかも“当たり前に存在するもの”でありたいという思いがあります。わざわざ「ラジオを聴こう」と意識することなく、真岡市に暮らすみなさんの生活リズムに溶け込むことが目標であり、私たちの存在意義であると考えています。

高橋さん:まずは週に1つでも、リスナーの方それぞれにとってのお気に入りの番組を見つけていただき、FMもおかを聴く習慣をつけていただく。それによって、きちんとした情報が浸透し、真岡市での安心な暮らしへとつなげていくことができたら、これ以上に嬉しいことはありません。

小池さん:自治体としての真岡市の目標は、市民のみなさんに幸せで安全な毎日を過ごしていただき、「このままずっと真岡市に住み続けたい」と思っていただくことにあります。その具現化を担うものとして、FMもおかの役割は非常に大きいと思います。

 

【FMもおか概要】

社名:株式会社 エフエム真岡
ステーション名:FMもおか
周波数:87.4MHz
所在地:〒321-4305 栃木県真岡市荒町5191番地
ホームページ:https://www.fm-moka874.co.jp/

 

文 = 天谷窓大
写真 = ロコラバ編集部

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